no.8「みずうみ...文庫本の思い出」060225

●私の読書遍歴といって、取り立てて語る程のものではないが、あまり本好きでもなかった子供時代の読書は「シートン動物記」や「ドリトル先生」でひとまず終わったかと思う。童話以後で明確に記憶に残っている最初の本は、小学校6年の時に両親の書架から大人臭いタイトルに惹かれて取り上げた「死よ驕るなかれ」(ジョン.ガンサー 中野 好夫,矢川 徳光 訳 岩波新書青版)であった。中学一年の頃、宿題や試験勉強なんてどうでもよいと、机に隠して読みふけったのは、いささか時代がかっているが、文庫本の「路傍の石(山本有三)」「次郎物語(下村湖人)」「二十四の瞳(壺井栄)」あたりからだった。

f0062810_3112657.jpg●その頃、文庫本の世界に入り込んだ私を見た父が、何を思ったか「この本はエエで」と言って、わざわざ買って来てくれた文庫本があった。シュトルムの「みずうみ」である。ドイツ作家の短編集だが、およそ父のイメージとはかけ離れているかに感じられる繊細でロマンチックな若い恋心や、遠い国ドイツの風景が見えるような美しい物語であった。
●当時の私にはピンと来る...または魂が打ち震えるという物語ではなかったが、時々父が「エイろう?」と、土佐弁で問うて来た時には首を縦に振っておくことにしていた。親爺が娘に初めて買ってくれた文庫本、あの時の父の気持ちが、今なら少し理解できるような気もする。この贈り物は、自分が父親らしい何かをした...おれの趣味を伝えたいという気持ちなんだな...その記憶として刻印されている。今もこの本は手元にある。私の文庫本との付き合いの記念碑のように。12歳をスタートラインに、文庫本には随分お世話になった。学生時代には、行きつけの書店さんに日参しての本漁り、挙げ句の果てに店番すらしたことがある。

●岩波文庫の★ひとつが50円で、★★だと100円というのは、いつ頃まで続いていたのだろうか。今時の人に、★一個がね...などと言う話をしてもポカンとしてる。こんな話を持ち出そうものなら、最早、自分が墓穴を掘っているような気がする。時代は変わった。

●最近ではカラー写真満載の文庫サイズの本など、うっかりすると1000円を軽く超えるようなものもある。でも薄手のものは300円前後からのようだ。数ヶ月に一度の小波、数年に一度の大波、本の虫が空腹を訴える。今時の文庫本のコーナーには食指の動く本が驚くほど少ない。余程の売れ筋か新刊は山とあるのに。昔、読み損ねて、今さら読みたい本は、大型書店かネット注文という時代になってしまった。ちょっともどかしい。
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by arinco22 | 2006-02-25 03:15 |      思


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